海外の葬送事情

フランス

宗教・自治体・業者が役割分担

                         大松好子

 フランスでの散骨の普及を調査するにあたって、まず遺体の処理方法について理解しておかなければなりません。フランスでは土葬が主流です。散骨の前提になるのは火葬ですが、フランスでは火葬を望む人々が少しずつ増えつつあるとはいえ、まだ火葬そのものが普及段階にあります。

家族が反対なら半分だけ散灰

 葬送については地方公共団体一般法典に規定されています。2213~39条では、火葬された遺骨は骨壷に納められますが、この骨壷は私有地に保存されることも可能であり、遺灰は自然の中に散灰することが可能であると書かれています。ただし、公共の道路にまいてはならないとも明記されています。

 トゥールーズ市内にあるオート=ガロンヌ県の県庁職員シャンピエ氏によると、「ヘリコプターで遺灰を山にまきたいという人がいれば、法律で禁止されてはいないが、遺灰が公共道路にかかってはいけないということです。ですから、海とか私有地は問題がありません」とのことです。

 個人の死後に行われる葬送・埋葬に関して個人の意志を通すためには、必ず生前に書かれた文書が必要になります。この遺書は、敬意を示して従うべきものとして扱われます。これは残された家族が葬送や埋葬を取り仕切る場合も同じです。

 しかし、そのほかにも、死後のプログラムを業者に委託するシステムがあります。葬儀の内容や値段、火葬か土葬かなど、細かにプログラムを立てていき、見積書を作って契約し、必要な金額を一括またはローンで支払います。

 散灰についても例外ではなく、このプログラムに組み込むことができます。もちろん、死後のプログラムを業者に委託してあり、死後にその業者に連絡するよう近辺の者に知らせておかなければ、プログラムは遂行できない可能性があります。

 このシステムでは、個人の意志が最優先されます。たとえば、故人が火葬を希望していたけれども家族は火葬に反対である場合、故人の意志通り火葬が行われるのです。ただ、散灰に関しては、もし家族から遺灰を手元に残したいという希望が出れば、遺灰の半分が家族に残され、残りの半分は故人の希望通りに業者によって散灰されます。

葬儀の参列は平服で

 フランスではカトリックが人口の90%を占めることから、一般的に葬儀は教会で行われます。葬儀の主な流れは、死亡確認→→ミサの日まで親類や近隣の人たちの弔問を受ける→→教会でのミサ→→埋葬、となります。次に示すのは、2003年8月13日(水)にトゥールーズから20キロ離れた郊外にあるサン・ソヴァーという村で亡くなったAさん(92歳)の8月16日(土)の葬儀の様子です。

 Aさんは、自宅で実の娘に介護されながら生活していた。8月13日、娘が薬局に買い物に出かけている間に亡くなった。その後、一般医が来て、死亡を確認し、遺体の処置が葬儀社によって行われた。一般的に、遺体保存のためには、氷による保存と薬物を体内に注入する方法との2種類があるが、Aさんの場合、死亡確認日から葬儀の日まで時間があるため、薬物による遺体保存が選ばれた。

 葬儀までの日は、親類や近隣の人々が訪れ、遺族とともに過ごす。このとき、訪れる人々の服装は普段と変わりなく、遺族もかしこまった食事などを用意するわけではない。近隣の人々は世間話などして数時間で帰っていく。

 葬儀は8月16日(土)の10時からサン・ソヴァーの村にある教会で行われた。家では、葬儀社が遺体を納棺し、棺と近隣の人々、親類縁者から届けられた花束を移動車に乗せる。移動車は静かに出発し、ゆっくりと進むので、その後ろを家族や親類を先頭にして、親しかった人たちがついて歩く。

 この時も特に服装は普段と変わりない。教会の前では、家に立ち寄らずにミサに直接参列する人々が待っており、葬儀社の移動車は教会の前で止まる。神父が死者に向かって祈り、その後、葬儀社によって棺が車から出され、教会へと運ばれる。その後を家族を先頭にして教会に入っていく。

 教会の中では、棺は祭壇の前に置かれる。神父によって、Aさんの紹介と生前の様子が語られ、参列者の1人によって聖書が朗読される。神父の朗読、説教と続き、聖体拝領が行われる。その後、神父からミサの終了が告げられ、葬儀社の人が棺を肩に乗せて教会近くに設置されている墓地へ移動する。

 参列者は教会出口に置かれたかごに教会への寄付金を入れて外へ出る。金額は決まっていないので、小銭だけでもよい。墓の前に棺が置かれ、神父の祈りの後、参列者一人ひとりが最後の別れをAさんに告げる。その後、棺は葬儀社の手によって墓の中に納められる。

 これは一般的な葬儀の1例です。しかし、棺を納棺所になっている墓に入れるか、直接土を掘った穴に埋めるなど、内容については多少の違いはあります。

重要なカトリックの役割

 葬儀の際、遺族は死者への別れのために参列します。埋葬まで遺族は死者との別れに集中するのです。それを可能にさせるのが葬儀社の役割だといえるでしょう。ポンプ・フュネーブル・ドゥ・シュッド・ウエスト社の従業員は「一般的に、人が死を悲しんでいる時に、葬儀の進行やその金額の話をするために、葬儀社は歓迎されていないと言われているし、実際に特に若い方の葬儀などでは、ご両親がまるで葬儀社が故人を殺したように攻撃的な態度で話されることもありました。ただ、私たちは遺族の悲しみを理解し、落ち着いた態度で接するようにしています」と葬儀社の姿勢について語っています。

 上記の観察記録からも読み取れるように、葬儀社は遺体の処理、棺の移動や埋葬について親族と打ち合わせをし、葬儀の日には棺の移動や埋葬を行うのみであり、葬儀の進行を指示するなど、表に立つことはなく、参列者との接触もありません。葬儀の進行は業者の役割ではなく、宗教(カトリック)の役割なのです。

 教会での葬儀の進行は、家族との話し合いにより、神父によって行われます。神父は故人の生前の様子なども語りますが、最も強調されるのは「死は最期ではなく、永遠なる命への扉である」という死の教義による解釈です。

 カトリックでは葬儀のほかにも洗礼、初聖体、結婚式といった儀式が教会で行われます。つまり、生気あふれる子どもたちへの儀式から、成人を意味する結婚、そして死者を弔う葬儀までです。これらの儀式に参加することによって、人々は教会で人生のサイクルを見るのです。葬儀は、死者を弔うけれども、神父の説教はむしろこれらの人生のサイクルを見る参列者に向けてなされます。参列する生者にとって葬儀を疑似体験し、死に対する解釈を再確認する機会だといえるでしょう。

“思い出の庭”に散灰

 フランスでは火葬の歴史は浅く、火葬は普及段階にあります。その普及に力を入れているのがフェデラシオン・フランセーズ・ド・クレマシオン(フランス火葬連盟)です。火葬が衛生を理由に法的に認められたのは1889年のこと。しかし、火葬が少数派にとどまっているのは、ヨーロッパでキリスト教が広まるにつれて火葬が敬遠されてきたためです。つまり、キリスト教徒は、キリストが埋葬されたように自らも埋葬されることを望み、またキリスト教側からも火葬禁止がなされたからだというのです。

 1886年、火葬が法的に認められる3年前には、カトリックの教皇レオン13世は教会の名の下で、故人が火葬にされる意志を残していても、この意志を遂行することを禁止すると述べています。その後、火葬推進者たちは何度も教皇にかけあいましたが、1950年ごろまで一度も具体的な話し合いはもたれませんでした。そして、ついに1963年、ジャン23世とポール6世の賛同を得て、火葬が教義に反しないことが正式に発表されたのです。

 では、火葬にされた遺灰はどのように扱われるのでしょうか。遺灰の行き場として考えられているのは、一般的に墓(土葬の墓よりサイズは小さい)、コロンバリウムと呼ばれるロッカー式の墓、墓地の敷地内に設置された散灰専用地、自然またはその他の場所です。

 このうち散灰専用地は通常、思い出の庭と呼ばれています。広々とした土地を墓地内に設け、木が数本植えてあります。通路とは区切りがされていて、職員、関係者以外は立ち入り禁止になっています。木の根元に灰をまいており、花や供え物は1年たつと職員によって取り除かれ、常に広々とした空間を保っています。

 資料では、家族や業者に手渡された遺灰がどのように扱われるのかまでは述べられていませんが、火葬された遺体の総数に対して、?家族・業者への引渡し、?コロンバリウムへの納骨、?散灰専用地、?自然に散灰――というそれぞれの数字があるので、示しておきましょう。1999年には、?66.1%、?9.7%、?20.7%、?3.2%。2000年には、?71.4%、?6.7%、?21.1%、?0.9%。2001年には、?71.4%、?6.9%、?19.6%、?2%、となっています。

墓地はすべて自治体の公立

 墓参りの日として知られているのは11月1日の万聖節です。そもそも、11月1日は9世紀に聖人を記念して設けられた祭りで、死者を祝うのは11月2日でした。しかし、現在では11月1日が死者の祭りの日として一般的に解釈され、この日のミサの中でも死者への祈りが含まれています。

 11月1日前後、人々は菊を買い求め、たいていは鉢植えのまま墓に供えます。墓参りをし、墓地の近くにある親戚の家を訪ねたり、墓地で近所の人たちと出会うなど、万聖節の前後では墓参りを通じて生者同士のコミュニケーションの機会が与えられています。

 墓地のある場所は、人口の少ない市や村では教会のそばに設置されているのが普通ですが、大都市の場合は必ずしも教会のそばにあるとは限りません。墓地の管理はすべて自治体が行っていて、墓地は公立です。私立の墓地を営業することは認められていません。しかしながら、すべての墓地に火葬施設およびコロンバリウム、骨壷用に縮小された墓地区画が設置されているわけではないのです。

 2001年の段階で、フランス全土での火葬施設は98施設だけです。たとえば、トゥールーズ市は人口約39万人で、フランス国内では第4、第5の都市ですが、トゥールーズ近辺では上記のような火葬に関する施設と設備を持つのは、コルヌバリューというトゥールーズ市外にある村が1つあるだけです。

 そこで、従来の土葬用の墓地の造成が自治体に限られているのに対して、火葬された遺骨を扱うスペースについては自治体の提案するものでは不十分で法的にも規制されていないことから、私立の遺骨のみを扱う墓地の造成も可能ではないかという議論が提示されたこともあります。

墓地の贈与も可能

 墓地の所有権とは、自治体と所有権の創始者との間で締結される一種の契約です。つまり公共の土地を占有する権利の購入ということになります。契約期限の内容は、10年・30年・50年・永代です。この購入に必要な金額は、自治体によって異なっています。

 この契約によって得られた墓地を使用する権利について、所有権の創始者は生前には墓を使用する権利を創始者の望む者に与えることができ、死後のことについては遺言で使用する権利を与えることができます。しかし、遺言を残さずに所有権の創始者が死亡した場合、この所有権とそれにまつわる権利(墓の使用も含まれます)は、家族に継承されたことになります。

 これについて、「家族ではない第三者が墓に入る可能性はあるのか」という問いがありますが、所有権の創始者が墓を使用する権利を家族以外の者に与えた場合は可能です。創始者が遺言を残さずに死亡し、墓の所有権とそれにまつわる権利が家族に継承された場合、家族のそれぞれに、この第三者が墓を使用するのに賛成か反対かを述べる権利があり、全員一致で賛成の場合は第三者も墓を使用することが認められます。

 墓の所有権は、一般的に行われている継承という形のほかに、贈与の形をとることも可能です。この際、墓の所有権の受取人は血縁の者です。つまり、墓は家族での使用が目的とされており、第三者よりも血縁者への贈与が望まれているのです。(ただし、まだ一度も使用されていない場合は、血縁以外の第三者への贈与も可能です)

 墓が、継承または贈与されていない、あるいは野ざらしの状態である場合はどのような対処がなされるのでしょうか。永代墓地の契約がなされている場合、墓地の委譲の日から30年以上経たなければ、放棄されていると見なすことはできません。放棄されたと見なされた場合、以下のような手続きがとられます。

 まず、自治体の長または代理の者が現場を視察した後、放棄された状態を認めます。自治体の長が墓地所有権の継承者を確認できる場合、書留で墓の状態を確認する日時を1カ月前に知らせます。もし、継承者の居住地が不明の場合、通知は役所と墓地の扉に掲示されます。

 そして、墓地の継承者と自治体が墓の状態を確認し、墓を維持していくかどうかの意思確認を行います。この意思確認で、墓を維持することを表明したにもかかわらず、3年経っても改善が見られない場合には、墓地継承者に再度通告します。その1カ月後には、自治体の長は自治体の議員を集めて、墓地の所有権を回収するかどうかを決めます。

おわりに

 この調査は2003年3月から8月にかけて、フランス南西部に位置するトゥールーズ市およびその近郊で行われました。その結果、葬儀から墓地のあり方まで死後に関わる一連の流れでは、業者・宗教・自治体のそれぞれが役割を担っていることがわかりました。また特に注目に値するのは、火葬が普及段階にあることです。しかし、火葬後の遺灰の扱い方については、具体的な数字があるものの、家族や業者に手渡された遺灰がどのように扱われるのか、どのような人々がどのような理由で火葬を選択し、遺灰の行方を選択したのかというところまではアンケートがされていません。 だいまつよしこ(大松好子) 大阪外国語大学卒業。京都大学大学院人間環境学研究科修士課程修了。2001年よりフランスのトゥールーズ在住。

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だいまつよしこ(大松好子) 大阪外国語大学卒業。
京都大学大学院人間環境学研究科修士課程修了。2001年よりフランスのトゥールーズ在住。

「再生」第68号(2004年6月)

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