自然葬推進法 全文の解説

法案に関する会員の皆さんのご意見、ご感想など遠慮なくお寄せください。よろしくお願いします。

「自然葬推進法」制定に向けて~全文より解説します~

 自然葬推進法(案)(以下「法案」といいます。)について、解説を試みたいと思います。
 法案には、前文があり、次のとおり三段落の文が規定されています。
 前文、第一章総則、第二章基本的施策、第三章自然葬施策推進会議までの17条の条文と附則から構成されています。

 まず、前文の説明をしたいと思います。

 第一段落「全ての国民は,日本国憲法が保障する基本的人権の一つとして,自然葬を実施する権利を享有する。」

 第二段落「自己の身体が遺体となったとき,その遺体が自然葬により葬られる権利は,公共の福祉に反しない限り,死者の生前における自己決定権として最大限尊重されなければならない。また,遺された者の死者を弔い見送る権利も,同様に保障される。」

 第三段落「ここに,自然葬のための施策の基本理念を明らかにしてその方向を示し,国,行政機関,地方公共団体,地域住民,特定非営利活動法人,自然葬に関し専門的知識を有する者等の連携の下,自然葬のための施策を総合的かつ計画的に推進するため,この法律を制定する。」

 そもそも前文とは、法令や憲法などの条項の前に置かれている文章であり、その法の趣旨や制定した目的、基本原則を書き記したものをいいます。  まず、第一段落で、自然葬を実施する権利が、日本国憲法が保障する基本的人権の一つであることを明記しました。安田初代会長が自然葬を日本国内で広めようとされた出発点がここにあります。安田さんは、自然葬を実施する権利(以下「自然葬実施権」といいます。)という新しい人権を発見したのです。

 次に第二段落ですが、自然葬実施権は、誰の人権なのかということが書かれています。安田さんは、自然葬実施権は、自然葬の実施を希望するご本人の人権であり、自己決定権であると考えました。「自己の身体が遺体となったとき,その遺体が自然葬により葬られる権利は,公共の福祉に反しない限り,死者の生前における自己決定権として最大限尊重されなければならない。」と書かれているのは、そのことを示しています。

 ここでご注意いただきたいのは、「公共の福祉に反しない限り」という文言です。皆様の中には、「公共の福祉に反しない限り」というと、「多数決に従うこと」であるかのように誤解し、不安に思われる方がおられます。実際、当会の総会でも会員の方からそのような質問を受けました。しかし、それは違います。「公共の福祉に反しない限り」とは、一言で言えば「他人の人権を不当に侵害しない限り」という意味です。

 人権と人権とは、しばしばいろいろな局面で衝突します。例えば、身近な生活の場面で、嫌煙権と喫煙権とが衝突することはご承知のとおりです。人権同士が衝突したときに、それぞれの公平を図ることを前提に必要かつ最低限の制限が許される場合があります。そこでいう「公平」とは、実質的な公平の意味であり、形式的な公平ではありません。

 つまり、形式的に議論もなく多数決に従って得られた結論ではなく、少数者の意見を尊重して実質的に公平な結果となるかどうか自由闊達に議論を尽くした結論です。その結論が実質的に公平であるならば、人権であっても法律に従って必要かつ最低限の制限が許される場合があるという意味なのです。ですから、法案の前文に「公共の福祉に反しない限り」という文言が入っていてもどうか安心して下さい。

 また,前文の第二段落には「遺された者の死者を弔い見送る権利も,同様に保障される。」と書かれています。安田さんは、葬送の自由を、本人だけの人権とは限定せず、本人の家族など死者を見送る側の人権としても捉えていました。安田さんは、当会の会員であっても、家族が墓埋葬を望むならば、当会としても家族の意思を尊重し、これを争わず寛容に会の運営を進めてきました。本人が希望し、家族が望んでこそ自然葬が成立するのです。

 そして、前文の第3段落には、「ここに,自然葬のための施策の基本理念を明らかにしてその方向を示し,国,行政機関,地方公共団体,地域住民,特定非営利活動法人,自然葬に関し専門的知識を有する者等の連携の下,自然葬のための施策を総合的かつ計画的に推進するため,この法律を制定する。」と書かれています。前述したとおり、自然葬実施権という人権は、人権である以上他人の他の人権と衝突する可能性があります。そこで、人権同士の衝突を調整するために、国や行政機関だけでなく、地域住民、NPO法人、学識経験者、葬送の専門家など、様々な方々が参加した会議体組織で意見交換や議論を行い、自然葬を推進していく必要があります。この法案は、その方向性を定める基本法となります。

 日本には、災害対策基本法、消費者基本法、障害者基本法、環境基本法、犯罪被害者等基本法など、50を超える基本法が存在します。私たちの法案は、これらの基本法に肩を並べる法律となるものです。しかし、法案が成立したとしても、それで完了ではありません。自然葬推進法ができて終わりではなく、そこからが始まりなのです。

 自然葬の実施の望む方々の多くは、その根拠となる法律の制定を求めています。ある会員の方から「母を散骨しました。母は、法律を守って生きてきました。散骨の根拠となる法律ができれば、母はきっと喜んでくれると思います。」というお手紙をいただきました。私は、そのお母様と安田さんのためにも、自然葬推進法の成立を強く願っています。