自然葬と現代社会・論考など

日本墓園-違法開発の後始末

「日本墓園」財団法人許可取り消しから10年
「再生協議会」核に清算・再生を模索
違法開発の後始末など、なお難題山積


                            小飯塚一也(理事・「再生」編集担当)

 ゴルフ場開発などに手を出して多額の負債をかかえ、公益法人の設立目的を逸脱したとして厚生省(当時)から財団法人の許可を取り消された「日本墓園」の清算手続きが今年で10年になった。「横浜霊園」(横浜市栄区)を中心に、全国4ヵ所、合わせると3万区画近い大規模霊園を運営し、多くの利用者がかかわる。3年前に初の清算計画案が出され、昨年、今年と再検討案が示されて清算・再生の道筋は姿を現しているものの、違法開発の後始末が足を引っ張るなど難題は山積だ。本誌「再生」(33号、1999年6月)リポートの続報である。

 日本墓園の清算人が管理しているのは、横浜霊園(第1、第2霊園合計で25,000区画)、三浦海岸公園墓地(神奈川県三浦市、2,300区画)、清水公園墓地(静岡県清水市、750区画)、鹿児島霊園(鹿児島県姶良町、360区画)。許可取り消しは、99年3月26日で、その2年前に一掃された旧経営陣が、福島県いわき市のゴルフ場開発など設立目的にない事業に資金を投入し、94億円もの負債をかかえたといわれた。「破産すれば、墓が競売にかけられるのでは」と利用者の不安が高まった。

■かさむ違法造成の是正費用

 「私たちの墓地を守る会」(現在・会員2500人、佐伯剛代表)が結成されたのはその年10月だ。以来、「守る会」は定期的な会合を開き、国や神奈川県、横浜市、精算人との交渉をし、「守る会ニュース」を発行するなど活発に動いてきた。

 2003年になって、清算手続きを監督する横浜地裁が、「守る会」、横浜市、神奈川県、清算人による「日本墓園再生協議会」(事務局・横浜市健康福祉局)の世話役をしてほしいと市に持ちかけた背景に、会の活動があった。当初は月1回、最近は3か月に1回のペースで4者の話し合いがある。

 長く示されなかった清算計画案は2006年に初めて出た。94億円といわれた大口債務は債権放棄や債務カットなどで13億円に減額されていたが、今年の再検討案では4億円となっている。その一方で、新たな難題として立ちはだかってきたのが、横浜霊園内にある違法個所、危険個所の是正問題だ。

 日本墓園の旧経営陣は数々の違法造成などが指摘され、96年には都市計画法、宅地造成等規正法などにもとづく是正勧告が市から出された。しかし、放置されたまま財団法人取り消しとなった。オーバーハングした崖の真下にある墓、急斜面にひな壇のように並べられた墓、緑地指定地を転用した墓など、いまでも法的には問題個所だらけといっていい状態だ。違法と知りつつ、ゴルフ場投資などの資金を捻出するため、墓地として販売したと見られている。

 市は、遅ればせながら2004年に造成許可当時と比較する現況図の作成を清算人に求め、清算人、「守る会」代表とともに現場調査などを行った。その結果、違法個所にある墓は4729基にのぼり、うち1523基は危険区域にあることが分かっている。昨年の清算計画案には危険か所の是正費20億余円、墓地移転費7億円が計上されたが、今年の再検討案では、市とともに現場に即した工法などを検討し、危険か所是正費9億5000万円、墓地移転費4億6000万円に圧縮されるなどしている。

 それでも、新たに大きな“債務”が発生したことに変わりない。市は法令順守と清算・再生のための現実的な判断の間で決断を迫られたかたち。違法状態が長く続いていたことは、ずさんな行政と批判されかねない苦しい立場だ。

 横浜市港南区の吉井侑二さん(80)は、この夏まで「守る会」の副代表を務めた。1961年、財団法人になる以前の横浜霊園に墓を買った。「私が買ったころ、霊園は平らだった。それが四方に広がり、斜面をのぼって稜線近くまで墓になった。つくればつくるだけ売れたのです。つくった後で申請したような形だった。無理な運営がなければ、地の利のいい立派な墓地になっていた」と残念がる。

 清算計画の骨格は、債務返済や危険か所是正費などを墓地の年次管理料値上げでまかなう内容で、計画が認められても30000人近い墓地利用者の了解をどう取り付けるか、清算終了後に運営を移行する受け皿法人をどこから見つけてくるか、など難題は残ったままだ。

 「守る会」の尾崎直人事務局長は「10年もやってきてそろそろ成果を出したい。峠が見えてきたと思いたい」という。しかし、旧経営陣は、「永代使用料」ならぬ「永代管理料」というシステムを作り、1960年代には10万円程度、80年代になると100万円程度で売っていた。管理料を払う必要のないこうした利用者が全体の6割を超している、という。  

■取り消し後、さまざま動いた厚生省

 厚生省が財団法人の許可を取り消し、後の処理は墓の使用者や清算人、横浜市、神奈川県などの前に投げ出された。取り消し直後の新聞には、「所管が離れたので分からない」「墓地の問題は民事問題。厚生省に権限はない」などと、厚生省の木で鼻をくくったような回答が並んでいる。しかし、当然、日本墓園の経営実態については深く知り、発言とは裏腹にさまざまな動きをしている。

 民主党の新内閣で法務副大臣になった加藤公一衆院議員が、初当選した2000年に「公益法人の理事による利益相反行為と主務官庁の指導監督義務」について国に質問書を出した。加藤議員は別の目的の質問だったが、その答弁書には、過去10年間の公益法人への「命令」の一覧が示されており、厚生省の欄には日本墓園に対し96年9月に「運営状況を明らかにするための命令」が、97年4月、98年9月には「運営の健全化を図るために必要な命令」が載っていた。

 この時期にあわせて、日本墓園設立当初の理事が一掃され、新たに理事長に仲澤幹彦氏(税理士)、理事に長谷川正浩氏(弁護士)らがなり、取り消し後は両氏が清算人になった。

 日本墓園は、初めは横浜霊園だけだったので神奈川県が財団法人の設立を許可した。その後、静岡県などにもつくられ厚生省に所管が移った。しかし、墓地の許可や指導監督は地方自治事務、という国の方針がある。法人の監督は国、墓地運営の監督は自治体と分裂する形になる。

 日本墓園の許可取り消しをした翌年、厚生省は各自治体に「今後は、墓地経営目的の財団法人設立は認めない」などとする通知を出した。財団を許可した自らの施策を否定した格好だ。

 また、同じ年の11月には「墓地経営・管理指針等作成検討会」(座長・浦川道太郎早稲田大学法学部教授)を開いて「墓地の経営、管理の方法について利用者の期待権保護のため適切な対策」について話し合い、報告書にまとめた。10人の参加者のうちには、当時現職だった宮崎保典・横浜市衛生局生活衛生課長と前任だった田村寿男氏という2人の横浜市職員が出席していて、日本墓園の問題処理対策だったことをうかがわせる。

 報告書では、「墓地経営を取り巻く厳しい現状」について、1.墓地使用権の販売等により一時的に多額の金銭が集まることによる危うさ、2.金利が低く財産の運用が困難、3.経営の見通しが難しい、など指摘し、「墓地埋葬法と墓地行政」の項では、(知事は)不適切な申請については利用者保護の観点から許可しないことが重要などとし、また、「墓地経営の許可に関する指針」の第1項目には、「墓地経営者には、利用者を尊重した高い倫理性が求められること」とある。

 「永代管理料」にも言及していて「運用が難しく、不測の事態の対応が難しい」と判定している。

 国自身の所管の下にあった財団の監督責任はさて置いて経営者の「倫理性」に期待するなど、墓埋法にもとづいた墓地行政だけでは問題解決ができない現実を認めたような内容だ。

 横浜市健康福祉局生活衛生課の担当者に、当時の市の受け止め方について聞いた。

 「公益法人の設立目的に反し多額の負債をかかえ債務超過になったためという趣旨の通知があったが、その他にどのようないきさつがあったかは分からない。しかし、前代未聞、空前絶後のことと思った」と答えた。清算手続き中も法人は存続するとはいえ、市としては許可した相手が突然消滅した状態となった。霊園の使用者の苦情や不安もたくさん市に寄せられた。

 「日本墓園再生協議会」が発足したこと自体が、問題を投げ出された自治体側の困惑そのものを表している、と生活衛生課の担当者はいう。墓地使用者、精算人のほか、市の内部でも宅地造成や都市計画を担当する部局が参加し神奈川県も加わった。現実に迫られ、官民を問わない話し合いの場となった。

 厚生省の処分について、関係者の中には「乱暴だし裁判で争えば処分取り消しの判断が出たと思った。ただし、当時はその余裕はなかった。厚生省は労働省と合併する前で、問題をかかえたくなかったのではないか」という声もある。

■石材会社の営業めぐり続く議論

 穏やかな秋晴れだった10月12日の「体育の日」、横浜市栄区の横浜霊園を訪ねてみた。墓参や納骨の姿があちこちにあって、一見和やかな墓地の光景だった。

 園内は25ヘクタールあり、東西・南北それぞれ1キロ近い。大きな鉢のような地形に墓碑がぎっしり、稜線近くまで続く。入口の駐車場の先にズラリと並んでいた墓をよく見ると、百数十万円から数百万円の値札がついたピカピカの墓石サンプルだった。管理事務所前は、墓石の改修や墓地の相談を看板に掲げた石材会社のプレハブ案内所が占め、園内の通路脇には新しく建てられる墓石セットがいくつも積まれていた。霊園とはいえ、「石」の姿が目につく。

 日本墓園では当初、墓石などの工事をする登録業者として5社が参加していた。後になって渚石材(東京・墨田区)という業者が加わった。財団法人の許可が取り消された後、旧経営陣との関係が深い5社は登録契約を解消され、その後は事実上、登録業者は渚石材1社となった。

 法人許可の取り消しで、墓地使用者に墓地が競売にかけられるのではないかなどの不安が高まっていた当時、同社は「墓石を立てていないと永代使用権は危ない」などと強引な売込みをはかった。不安を掻き立てるような行為には苦情が相次いだ。横浜市消費生活センターに99年度上半期に届いた「墓地の永代使用権の永続性」「墓石の強引な売り込み」などの相談は118件にのぼり、うち92件が日本墓園関係だった。市は、精算人に対して、行過ぎた営業活動をやめるよう指導した経過がある。

 「昔はあったがいまはない」という清算人に対して、いまも「カロートに水が入った」などといって修理をすすめる文書を多くの使用者に送りつけてくると「守る会」はいい、石材会社についての論議が続いている。

 「守る会」は、今年に入って「複数の石材店を建墓者が選択できるように勧告してほしい」などとする意見書を裁判所に提出し、精算人は、現在は渚石材だけでなく関連会社なども登録していて、この関連会社には霊園の管理業務の大半を委託している、このような協力がなければ霊園の管理を継続できない、などの見解を示している。

 霊園の一角に、「墓所使用者の皆様へお知らせ」という2002年付の次の看板が掲げられていた。

 「当霊園の管理使用規定では、当霊園の登録業者以外は墓所に関する工事を行うことができない旨定められています。(中略)当霊園事務所で登録業者を紹介します。登録業者以外に発注されて、その後に不測の事態が生じても、当霊園としては一切の責任を負いかねますのでご承知おきください」

 弁護士でもある「守る会」の佐伯代表は、霊園に自身も墓をもっている。「葬送のやり方は、本来は自由に選択していいことだが、墓に入れなくてはいけないという墓埋法を利用して墓園の経営がなりたっている。しかし、人の悼みの気持ちは本来商売に利用するべきことではない。墓園経営を石材業者など埋葬にかかわる事業者にゆだねてしまうことに問題がある」と話している。

再生75号(2009.12)

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