自然葬と現代社会・論考など

国有林の開放、森林管理局などへの働きかけを決定
「葬送基本法制定アピール」前面に全国運動へ

                        本会理事  西俣総平

 会は、先の会員総会で承認された活動計画にもとづいて、国有林の開放をすすめる運動を積極的に展開していくことを10月理事会で決めました。2009年度活動計画第6項「国有林の開放をすすめる」は次のように述べています。

 「国有林の自然葬への開放をすすめる運動の重要性は、繰り返し強調されてきた。森林行政の行き詰まりを背景に、地域の林業関係者、森林所有者が会の運動に関心を深めてきている状況を踏まえ、林野庁への働きかけを強める。また、支部でも林政関係者や研究者、森林活動家らとの連携をはかり、森林管理局や森林管理事務所へ申し入れるなど複層的に働きかける。」

 また、葬送基本法制定小委員会がまとめたアピールにも「国、地方自治体は、『自然葬』が節度をもって行われる限り、自然葬のための公有地開放、この精神を具体化するための公的予算の投入を積極的に行う」とうたっています。

■全国の森林管理局に働きかけ

 今回新たに全国展開する国有林開放の運動では、「葬送基本法制定アピール」を前面に掲げ、自然葬を国公有林で実施することが市民の当然の権利であることを認めるよう、国や自治体に働きかけていきます。

 具体的には、本部と各支部が歩調を合わせ、農林水産省林野庁および全国7ヵ所にある森林管理局に申し入れをします。北海道森林管理局(札幌市)、東北森林管理局(秋田市)、関東森林管理局(前橋市)、中部森林管理局(長野市)、近畿中国森林管理局(大阪市)、四国森林管理局(高知市)、九州森林管理局(熊本市)にはそれぞれの地域にある支部から要請する予定です。林野庁に次いで、国立公園を管理する環境省自然保護局も対象の視野に入れています。

 林野庁が所管する国有林は、約760万ヘクタール。わが国の国土面積の約2割、森林面積の約3割を占めています。会はこれまでも林野庁に自然葬に国有林を開放するよう申し入れてきましたが、前向きな回答は得られていません。

 国有林は木材供給の生産現場である。国有林の利用は不特定多数の国民の利益のためにおこなわれるべきであり、散骨という特定の個人にかかわる利用に供することはなじまないなど、きわめて形式論理的な理由からです。

 森林白書には「国民の森林」「森林とのふれあいの場」「森林と人との共生林」などとうたいながら、自然葬に門戸を開放しようとしない林野庁に対して、会は「葬送基本法制定アピール」を新たな契機として、国有林開放を今年度の運動の大きな柱の一つに立てることになりました。

■現場に広がる自然葬への理解

 これまで国有林で自然葬がまったく行われなかったわけではありません。ある会員からは「父の遺灰を福島の国有林でまかせてもらった」という報告もあります。亡父は故郷の森にどうしても還してほしいと遺言していました。たまたま知り合いの営林署員に相談したら承認してくれ、自然葬にも立ち会ってもらったとのことです。自然葬が社会的に認知されるとともに、国有林の現場でも自然葬への理解が進んできたといえるでしょう。

 本会顧問の前・国際日本文化研究所長の山折哲雄さんが唱えている「どこかで人知れず一握りだけまく」“一握り散骨”でも、生前に好きだった国有林や国立公園の景勝地に、遺族や友人が遺灰をまくケースが当然あるでしょう。

 “一握り散骨”は個人にまかされた自由な節度ある自然葬の一つの形ですが、国有林開放はこれをさらに社会的に広くすすめる運動につながるものです。

■ 広く開放された米国の国有林・国立公園

 欧米諸国では散骨に対して国有林が広く開放されています。アメリカ農務省の森林局(フォレストサービス)は全米各州に優れた自然と景観を備えた「ナショナルフォレスト」(国有林)を指定しています。インターネットで検索すると、全米の主なナショナルフォレストが出てきます。どのフォレストのホームページにも、Q&A方式で散骨できるかどうかとの問いに対して「ナショナルフォレストでは散骨を規制する条項はありません」と明確そのものです。

 また、国立公園内の散骨については、ハワイのハレアカラ国立公園を例にとると、あらかじめ故人の死亡診断書のコピーをつけて公園事務所に申請すれば散骨のための特別許可証が発行されます。いくつか守らなければならない規則がありますが、山頂付近の丘陵や海沿いの指定された区域内にまく、人骨と識別できない程度に細かく砕く、写真・供花・記念品を残さない、節度をもって敬虔におこなう、決まった使用料を払うなどです。

 こうした世界の潮流に逆行する日本の森林行政をただすためにも、会は積極的に国有林や国立公園の自然葬への開放を強く訴えていきます。
(2009.12)

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