自然葬と現代社会・論考など

寺が反対住民と合意書交換

なくなった日野市百草山の墓地開発
地権者・寺が反対住民と合意書交換



 東京・日野市が緑地保全重点計画の対象にしている百草山地区に3900区画もの墓地や管理棟を造成しようとする大規模墓地計画が2006年5月、明らかになり住民が反対運動をすすめてきました。経過は「再生」62、63号で報告しましたが、この8月、地権者、寺(八王子市の西光寺)側と住民の間で「今後この墓地開発をしない」という内容の合意がなり、今回の墓地開発計画は阻止することができました。以下は、住民の会員、峰岸立枝さんからの報告です。

 百草山の大規模墓地計画が明らかになって以来、住民は3つの反対運動の組織(「緑地を保全し墓地建設に反対する会」「百草山の自然と文化財を守る会」「百草・落川地区墓地問題対策住民会議」)で地権者、寺側に申し入れをしたり、日野市に働きかけをしたりするなど運動を続けてきた。市も開発を認めない考えを明らかにしていた。

 一昨年7月30日、寺と地権者が市を東京地裁に提訴した。寺は市が申請書類を受理せずに返却したのは行政措置の違法行為である、地権者は市が用地周辺に柵を設置することで土地に対する損害が発生したなどという内容であった。裁判は3か月に2回ほどのペースで行われてきた。反対運動の3つの会は市を支援するために裁判の傍聴活動に参加してきた。

 今年8月18日の裁判の折に地権者・寺側の弁護士から裁判取り下げの提起があり、その後被告である市側もこれを了承した。また、都保健所に提出してあった仮申請書の取り下げも行われた。

 その10日ほど前、地権者・寺側と「緑地を保全し墓地建設に反対する会」「百草山の自然と文化財を守る会」の代表との間で、①墓地訴訟を取り下げ、今後この墓地開発をしない、②取り下げが決定するまで公表しないことなどの合意書調印にこぎつけた。それに至るまで裁判の長期化を望まなくなった地権者側とお互いの思いを斟酌しながら周到な話し合いが何度も持たれた結果の合意だった。

 日野市も住民も開発を阻止するため時間がかかったにもかかわらずあきらめなかったこと、「緑地を保全し墓地建設に反対する会」の代表は家族ぐるみで反対運動の拠点として運動を支えてきた。11年あまり前に結成された「百草山の自然と文化財を守る会」は市と協力し、百草園周辺の緑地の多くを保存する運動を続けてきた。開発問題が起きた場合も業者と話し合い、建物と景観の調和や残すべき緑地の面積の拡大などに努めてきた。そうした基礎があった。計画が分かってから急きょ結成された2つの会を加えて3つの会に住民は結集し、このような結果を導いた。この間、地権者企業の会長の交代により裁判に対する意識の変化も起きたわけである。

 この運動の中で、開発予定隣接地で進められていた道路を拡幅する事業でも、土地所有者の中から旧道のまま維持し昔の景観を残したいという人も出るなどの波及効果もあった。墓地開発はなくなったが丘陵地の開発は国の制度上緩和されているので、今後地権者がどうするか、緑地の買収は財政上困難という市に保全の手段はあるのかなどが問題になってくる。

                                (会員=峰岸立枝・記)

再生75号(2009.12)

logo
▲ top