自然葬と現代社会・論考など

横行する散骨ビジネス 山林を利用して安易な金儲け

                        北海道支部長 塩崎義郎

本会が創立以来14年間にわたって普及と啓蒙の努力を続けてきた自然葬が社会的に認知される一方で、市民運動の理念とは全くかけ離れた営利目的の散骨ビジネスが最近になって各地に生まれてきた。会はビジネスとしての散骨を必ずしも否定するものではないが、事柄が死者の葬送という祭祀に深くかかわる以上、一般の営利事業よりも一層厳しい倫理性と、節度ある行動が要求されると考える。

 にもかかわらず、なかには会の自然葬と意識的に紛らわしい名称を名乗ったり、暴利をむさぼろうとする業者が少なくない。最近、会の周辺で起きた事例を報告する

自然葬から“里山葬”に改名騒ぎ
鉱山会社が散骨ビジネスに進出

 事の発端は今年4月。会の本部事務所に秋田県で鉱山会社を経営するという人物が自然葬の資料を請求に訪れた。話を聞いてみると、青森県境の白神山地に近い所にゼオライトという建築材料になる鉱石の出る山を持っているという。もちろん会員でもないこの人物は、事務所で再生の森や自然葬の仕方などを“取材”して帰った。

 それから1カ月後、「“自然葬の森”で散骨を!」と大々的にうたったセールスパンフレットが送られてきた。それや社長の話などによると、“自然葬の森”と命名した山に50万円ほどで散骨でき、散骨した場所にはゼオライトで作ったプレートに故人の名前を刻んで埋めるという。一関の樹木葬がもうかっているとみて、考えついたらしい。

 自分の持ち山で安直に金儲けするため、散骨ビジネスに進出しようという魂胆が見え見えなケースだが、“自然葬”の名称を勝手に使用することで、あたかも会と関係があるかに装う営業方針は、会として絶対に容認できない。

 理事会では厳しく対処すべきだとの意見が大勢を占め、5月24日に会長名で以下のような抗議文を出した。これに対し、この会社は“自然葬の森”という名称を“里山葬の森”に変更すると回答してきた。

[ 抗 議 文 ]

 自然葬という言葉は、15年前に市民運動としてスタートした「葬送の自由をすすめる会」の理念と深く結びついている本会の造語である。
 貴殿は所有林を使って計画されている散骨ビジネスに“自然葬の森”と命名、すでにパンフレットまで出されている。
 これは「自然葬」のイメージを損ない、自然葬をボランティアによってすすめてきた本会会員1万1,000人の誇りを傷つけるものである。
 われわれは散骨ビジネスを否定するものではないが、今回のことは事業家としても道義的に許されない行為である。即刻その命名を撤回されたい。強く警告し、抗議する。

“樹木葬”公園でトラブル 北海道・長沼で住民反対の中で強行

 北海道長沼町で、札幌のある団体が樹木葬公園と称する「散骨場」の分譲を始め、周辺の住民が反対の声を上げ、町議会も反対決議するなど、とんだトラブルを招いている。法や条例による自然葬規制にもつながりかねず、警戒を要する動きだ。

 この団体は、1999年に設立されたNPO法人「22世紀北輝行研究会」。同町幌内に所有する山林約2万3,000平方メートルに公園を造り、4平方メートルずつ区画して散骨用に分譲する。永代使用料として52万5,000円と年1万2,600円の管理費が必要という。

 しかし、周辺は牧場や畑が広がり、農家や新興住宅地も点在する近郊農業地帯とあって、周辺住民が「地下水の飲用ができなくなる。農産物への風評被害も心配」と反対の声を上げ、6月10日には町議会も設置反対を決議した。そんな動きの中でも、団体側はあくまで「散骨」なので法に触れないと主張、事業を強行している。

 これに対して町側と道は、「事業の是非を判断できる基準がない」と困惑しているという。また、町は地元への説明会の開催を団体に指導しているが、地元住民が強硬にボイコットしている。

 この団体の「運営概要」によれば、「遺骨は焼骨されたものとし、樹木の根元約50センチ程度に焼骨をそのまま散骨」とあり、「散骨」という言葉を使いながら、骨は粉末化しなければならないとは言っていない。実際には「埋葬」と見られかねないフシもあるように、事実「埋葬」という言葉も散見され、墓地埋葬法などに触れる恐れが当然指摘されよう。

 また、これほどはっきり反対の動きが表面化していながら、かまわずに強行する姿勢も大いに疑問である。それよりも気になるのは、これに対抗して、自然葬を法律や条例で規制する動きが出かねないことだ。既に町議会も法規制を要請する動きを見せているが、町や道などは今のところ慎重な構えのようである。

 目下は、反対の声の包囲網の中で事業を進めても、実際にどれだけの応募者が出るかといった疑問もあり、展望は不透明だが、行政の動く方向などを油断なくウオッチングしていかねば、と緊張感をもって注目している。

(注:2004年6月11日付北海道新聞、同15日付読売新聞も参照した)

(2004.9)

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