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韓国の国有林で始まった樹木葬林の運用

新葬送法で「自然葬」を定義、各地で造林

                        小飯塚一也 「再生」編集担当

 ソウルの東120キロにある韓国・京畿道揚平郡の国有林で、日本なら林野庁にあたる韓国の山林庁が大規模な樹木葬林をつくったことをウェブサイトで知り、メールで問い合わせたところ、即座に数葉の写真が返信されてきた。その後の何度かのやり取りで森の様子も少しずつ分かってきた。韓国では、「自然葬」を体系づけた新しい葬送法が一昨年5月施行され、各地で火葬率向上策や施設計画が進んでいるが、新方式の樹木葬林をどう進めるかは法の制定過程で議論の中心だった。

 森は、ソウルを流れる大河・漢江上流域の揚平郡楊東面という地域にある自然林で、広さは55ヘクタール。アベマキ、カツラなどの高木落葉樹やマツ、五葉松などの針葉樹のほか、さまざまな広葉樹で覆われた風光明媚な山の中にある。 山林庁によると、運用を始めたのは昨年5月で、当面2009本を樹木葬用に整備し、昨年暮れ現在で731本の樹木に2211人が予約をしている。最終的には、2万90本を用意する計画。1本の樹木を最大10人が使えるので、単純計算では20万人分以上の樹木葬ができることになる。

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揚平の樹木葬林の入口(韓国山林庁提供)

 遺灰は樹木の根元の周囲に穴を掘って埋める。骨ツボを使う場合、ツボの大きさは縦、横、高さ各30センチ以下、材質は生化学的に分解されるものと規定し、遺灰をそのまま埋める場合はやわらかい土と混ぜなくてはならない。いずれも深さ30センチ以上に埋めることが求められる。

 埋葬したことを示す「標識」は、樹木1本あたり1個に限り、大きさは150平方センチ以下、樹木を傷つけないよう、打ちつけたりするのでなくぶら下げる方式に限定している。

 家族用の樹木と共用の樹木があり、年間使用料は家族用が、Aクラス2万ウォン(円換算で1600円)、Bクラス1万6000ウォン(同1280円)、Cクラス1万2000ウォン(同960円)で、このほかに年間管理費が13万5000ウォン(同1万800円)。管理費は3人分までまかなえ、4人以上になると1人増えるごとに4万5000ウォン(3600円)ずつ追加しなくてはならない。共用樹なら、Aクラスでも円換算で年間使用料は320円、年間管理費3600円だ。  

 費用は樹木の管理、連絡費、運営費などに充てられるという。

 質問に対し、山林庁は樹木葬林の造成について「山林荒廃や多量の伝統的土饅頭墳墓による土壌侵食の予防に役立つうえ、親環境的な葬送文化を通した森林経営の実践につながる」と回答している。地方自治体の林野など各地で整備が進んでいて、ソウルの南部にある100万都市・水原市は昨年夏に市営の樹木葬林を開設しているが、国営の揚平の樹木葬林はそれらの中で最大規模という。

 葬送の自由をすすめる会は、2006年4月にソウル中央大学校で同大の朴詮烈教授(日本伝統文化論)とともに日韓自然葬交流会を開催した(「再生」61号に報告)。この会議では韓国側から樹木葬林推進についての報告が相次いだ。「スイスやドイツでは樹木葬林には付帯施設を設けない。墓地という考えは排除し、山林育成の見地から管理されている」「樹木葬林で葬墓サービスを提供することが国有林の経営目的にかなう」などの議論が交わされていた。

 「自然葬」の推進を大胆に体系づけた新しい「葬事等に関する法律」が施行されたのはそれから2年後だ。

 法は、第1章「総則」の「定義」で、「自然葬」については「火葬した遺骨の骨粉を樹木、花草、芝などの下や周辺に埋めて葬事すること」とした上で、本論に入ってまず、「国家と地方自治体の責務」として、「国家と地方自治体は墓地増加による国土毀損を防止するために火葬、納骨及び自然葬の奨励のための施策を講究、施行しなければならない」と求める。第2章「埋葬・火葬・改葬及び自然葬の方法」で、「自然葬をする者は火葬した遺骨を埋めるのに適合するよう粉骨にしなければならない」「容器に入れる場合は生化学的に分解可能なもの」などの基本的方法を規定し、第3章で「自然葬地の造成」などを奨励すると同時に、墳墓の占有面積や設置期間を制限し、第4章では無縁墓の処理について規定するなど、豪華墓地や土饅頭からの転換をめざすことを明瞭にしている。

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森をめぐる木の階段

 「樹木葬林」については、「山林資源の造成及び管理に関する法律による山林に造成する自然葬地をいう」と規定し、自然の山林での造林を前提とする。また、「山林庁長または他の中央行政機関の長は、国有林など国有地に樹木葬林やその外の自然葬地を造成、管理することができる」として、さまざまな政府機関にも広く国有林野の積極的利用をうながしている。個人、家族や一族、法人、宗教団体などによる「私設」の樹木葬林や自然葬地の造成についても、面積や「届出」「許可」などの設置条件をつけてはいるものの推進をはかっている。

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丸太で作られた山道も

 法案は、日本の厚労省にあたる保健福祉家族部がつくった。海外事情も調査し、日本の自然葬運動を研究して条文に取り入れたとみられる。海や川など、広い自然への言及がなく、「散骨」というより「埋葬」にとらわれていて、「自然葬」という言葉をつくり運動を推進してきた「葬送の自由をすすめる会」の考え方とはズレはあるが、国有林の自然葬への開放をすすめるなど、総体として日本の運動を韓国流に換骨奪胎した実践ともいえる。

 法の施行を前に記者会見をした当時の金聖二・保健福祉家族部長官は、「自然葬地は自然親和的で保健衛生上害がないので、墓地設置の際に適用する道路、鉄道、河川及び人家や公衆密集地などとの距離制限を置かなかった」「自然葬は親環境的で経済性、効率性の側面から既存墓地・納骨施設より優れているので今後の葬事文化の中心に位置づけできる」と法の意義をうたい上げている。

 興味深いのは、法制定の過程で繰り広げられたさまざまな議論の中で2006年にあった保健福祉部(当時)と山林庁の、「樹木葬林は墓地か山林か」という議論だ。国会で行われたセミナーについてウェブのリポートがある。

 山林庁は、「法案は樹木葬を含んだ自然葬地を民間に許容しているが、これでは山林荒廃と商業主義の弊害が再現する」と「私設」の樹木葬林を認めていることを問題にし、「葬事のための施設は保健福祉部が管理するとしても、樹木葬林は山林部署が担当しなくてはならない。葬事は一瞬だが森の管理は100年を越えて持続しなくてはならない。樹木葬林は墓地ではない」と主張した。これに対し保健福祉部は、「樹木葬は墓の範ちゅうで考えるべき。民間に許容したのは個人や家族、一族などの自己決定権を尊重したためだ」「樹木葬林を運営できる主体を国家に限定した場合、個人の自由が侵害される。森の管理のためには樹木の専門家を配置する」などと反論している。

 この議論が法案検討のなかでどう調整されたのか細かい経過は分からない。しかし、山林庁が「親環境的な葬送文化を通した森林経営の実践」と強調しているのをみると、制定過程での主張が反映されているようにも思われる。

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森の入口に設けられた案内板

 昨年11月に、会が国有林の自然葬への開放を求めて林野庁と行った話し合いの中でも似たような議論が少しあった。

 林野庁は「散骨が全国的に行われていることは認識している。自然科学をやっているものとして火葬後の遺灰がどういうものか理解している。管理者としてはやめてほしいが、法的規制はないし国有林野で散骨が行われても損害賠償を求めることはない。墓として使われていると思っていればもっと厳しい対応をしている」と述べている。ここには、自然の林野での樹木葬・自然葬と墓を明確に分けた考え方が示されている。
(2010.6)

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