海外の情報

台湾の政府系雑誌で「自然葬」を大きく紹介

墓地不足、環境対策で8年前に新法導入
台北市や県など、毎年5月に海の合同葬

                    「再生」編集担当・小飯塚一也 

 台湾の行政院新聞局系の雑誌「台湾光華」が、最近の号で「環境にやさしい自然葬の時代」という記事をのせ台湾の自然葬を紹介している。墓地不足や環境対策などを背景に8年前、葬送法を改め、各地で「樹葬」「海葬」に取り組む。「再生」の前号、前々号で、自然葬の推進を「国や自治体の責務」と法に定めた韓国の動きを報告したが、この言葉をキーワードに日本、韓国、台湾ですすむ葬送・墓制の変化のうねりには、今年、京都大学で研究会が開かれるなど学界も関心を寄せる。

 「台湾光華」は、主に海外向けに台湾の情報を伝える月刊誌で、2カ国語対照訳の英語版とスペイン語版、日本語版がある。記事は今年5月号に掲載され、樹木葬、散骨の現状や歴史的背景を8ページにまとめている。

「台湾光華」の記事
自然葬をとりあげた「台湾光華」の記事

 「土地が狭く、人口密度が高い台湾では、伝統的な土葬は土地不足を招き、景観を破壊し、環境衛生などの問題を引き起こす」

 記事はこのように書き始める。

 台湾では、都市や住居、墓の位置が吉凶禍福を決めるものとみる古来の風水思想や儒教倫理をもとに墓がつくられてきた。土葬ののち数年して拾骨した遺骨が、大きな家型の家族墓、亀甲墓などに納められた。山腹を住宅のように大きな墓が占めている光景があちこちにある。しかし、費用がかり、土地もなくなる。政府は1970年代から、土葬中心の伝統的墓地に替わる火葬と共同墓地での納骨を推進し、90年代に火葬が一般に受け入れられるようになった、という。

 内政部(日本の総務省に当たる)の調べでは、70年に30パーセントだった火葬率は、2009年には89.11パーセント(都市部は99パーセント)だ。

 台湾の年間死亡者は昨年、14万2000人だった。いまや毎年そのうち10万人が火葬・納骨をされるようになっている。火葬・納骨がふえると、今度は火葬・納骨でも土地不足などの根本的な解決策にはならない時代が来る。そして内政部は、墳墓の設置管理の規範にすぎなかった「墳墓設置管理條例」(83年制定)は実情に対応していないとして、2000年から新法の制定作業に着手した。02年7月に現行の「殯葬管理條例」を施行すると旧法は廃止した。新たに、樹木葬や海や森、公園などへの散骨などが規定され、さまざまな「自然葬」の取り組みが始まった。

 インターネットで「條例」の全文を取り寄せてみた。

 全76条が7章に分けられ、総則のほか、葬儀埋葬施設の設置管理や経営管理、葬祭事業者の管理・指導、葬儀埋葬行為の管理、などの規定が並ぶ。条文は難しいが、中国語ができる人の助けをかりて読んでみると法の目的を定めた第1条は次のような趣旨だ。

 「葬儀埋葬施設が環境保護やその永続的経営に合致するように、葬儀埋葬事業がレベルアップし質の高いサービスを提供するように、葬儀埋葬の行為が現代の要求、個人の尊厳及び公共の利益に適合するように、それにより国民生活の質が上昇するよう促進するためにこの條例を定める」

 環境保護、葬送の現代化、個人の尊厳への配慮などの考え方が強調されているようだ。 条文に「自然葬」の表現はないが、第2条の「定義」には、火葬後の遺灰を細かく砕くための「骨灰再処理施設」や、共同墓地で土の中に骨灰を埋め上に花や樹を植えるか、樹木の根の周囲に骨灰を埋める「樹葬」など自然葬に関係する用語が登場している。

台北市など主催の海の自然葬
「台湾光華」にのった台北市など主催の海の自然葬。説明に「勇気と知恵がいる」などとある。

 共同墓地の緑化部分の面積は、少なくとも総面積の10分の3が必要などという規定や、「樹葬」の骨灰は「骨灰再処理施設」で粉にし、容器に入れる場合は容易に「腐化」する材質で毒成分を含まないものとする規定などは、環境関連の条項(17条)にある。

 「散骨」を意味する言葉は、実施する海域や公園、緑地、森林などの画定を規定した条項(19条)で「骨灰抛灑」と表現されている。「抛」は、「投げる」「放る」、「灑」は「(水などを)まく」「注ぐ」という意味だ。

 「光華雑誌」の記事には、「條例」施行後にすすんでいる各地の「自然葬」のようすが紹介されている。

 台北市の南部、市街地の高層ビル群を見下ろす文山区の山腹に古くから展開する富徳公営墓地がある。その一画に2003年11月、富徳生命記念園がつくられ、200坪の散骨区域ができた。マツやガジュマル、キンモクセイなどが植わり、1本の樹ごと周囲1メートルに直径10センチ、深さ20センチほどの墓穴が10個設けられている。中央花壇は散骨区域になっている。

 樹木葬を行う家族は、好みの樹木を選び、管理人の助けを借りて砂利の下にある穴を掘り出す。生化学的に分解可能な不織布の袋につめた遺灰と生花を穴に入れ、土を被せて終わる。花壇への散骨はどこでも自由に行う。散骨後、1センチほど土を被せて花びらをまく。自然葬推進のため、ここでは樹木葬も散骨も無料だ。

 墓地のホームページをのぞくと、生命記念園などの光景が出てくる。散骨をする花壇はハート型で、母子と見られる2人が灰をまき、手を合わせる姿が動画で映し出される。

 07年には、「富徳詠愛園」という1.2ヘクタールの樹木葬地がつくられ、6000個の墓穴が用意された。生命園と合わせてこれまでに1799人が葬られた、という。

 台北市の南部の宜欄県では、自然豊かな山中の県立埋葬施設の中に08年、630坪の樹木散骨葬区がつくられている。 海の自然葬を台北市が始めたのは03年。3年後に台北県、その翌年に西隣の桃園県も参加した。年1回、海の穏やかな5月に合同海洋葬がある。遺灰や遺骨は事前に市の葬儀管理所に預けられ、生化学的に分解可能な材質の安息箱に入れられる。実施場所への航行中は、思い出のビデオが放映される、という。

 ここ6年間で海洋葬で送られたのは合計で186人。最近、台北県が積極的に取り組み始め、昨年は53人、今年は記事が書かれた時点で90人近くの申し込みがあったと記しながら、「海洋葬は開始こそ早かったが、いまだあまり普及していない」という評価だ。

 そのほか、禅宗系の宗教団体が07年に開いた散骨公園もあり、そこで散骨された創設者の法師の「遺灰と精神、生命には何のかかわりもなく、肉身の最後の燃え残りで何の意味もない」という言葉が紹介されている。

 「樹木葬や散骨、海洋葬は、遺骨がまとまって形をとどめず、伝統的な葬礼と異なりすぎる」「海洋葬は渺茫とつながるところがなく、家族が安心できない」などの意見に対し、生命倫理や、生死教育の学者らでつくる中華生死学会の理事で、国立高雄師範大学の黄有志・副教授が「葬儀埋葬文化の改革の早道は、各個人から始めることだ」と語り、これに「自身の最後の時には、環境にやさしく、簡潔で人の心に訴える葬送の儀式を自覚的に要求すること、これがいわゆる葬儀の自主権である」などと解説的な文章が続いている。

 黄さんに電子メールで、①「條例」制定の背景、②台湾での自然葬の受け止められ方、③日本の自然葬運動の台湾への影響、④海の自然葬は広がるか、の質問してみた。すると、ていねいな返信があった。その内容は、以下の通りだ。

 ①について、「政府は2002年に、葬制の改革、自然葬による環境保護、葬送文化政策などを打ち出したが、それは台湾の高密度な人口のゆえだ。都市の墓地不足、地域では埋葬行為への非能率な規制による自然景観や生態的な損害があった。政府は、樹木葬や散骨をすすめているが、これらは土地を占有しないうえ親環境的だからだ」

 ②について、「台湾では人口構造が変わり高齢社会化が進行している。台湾人は自然葬を受け入れてほしいと思うし、受け入れる人はふえるだろう」

 ③について、「日本で注目されている自然葬運動は台湾にも影響を与えている。共同墓地での樹木葬の一種の桜葬は台湾の植樹葬に、あなた方の組織(葬送の自由をすすめる会)がすすめる散骨は、こちらの散骨に」

 ④について、「樹木葬は費用もかからないし、多くの台湾人が近い将来、好意をもつようになると思う。海への散骨に比べて、先立った人との悲しみや嘆きを伝えあう明白な場がある点が違う。この場に埋められたという感覚は感情を和らげる。現段階では、海葬は台湾ではそうすぐには広がらないのではないか」


台北の地下鉄駅ホームの「自然葬」広告
台北の地下鉄駅ホームの「自然葬」広告。「波とともに起き、林とともに憩う」と呼びかける。(本会事務職員・荻野るりさん撮影)
 台北市内の地下鉄の駅には、「波とともに起き 林とともに憩う 生命の愛を大地に帰そう――環境保護の自然葬・海葬、樹葬、骨灰植存」と大書された台北市、台北県、桃園県による大きな広告が掲げられている。県や市が、自然葬を重要な政策目標としていることは確かだ。

 


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再生79号(2010.12)

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